深夜の病棟はおどろおどろしい。
夜勤の看護師さんの足音と、会話だけが院内に響く。
たまに、どこかの病室の誰かと、会話しているのが、かすかに聞こえる。
正直、オレの精神状態もヤバくなってきていた。
看護師さんの話し声が、「ノブオ〇〇〇〇・・・」と聞こえるのだ。
オレの話題なんてしていないと思うが、確かにそう聞こえる。
天井には意味不明のカタカナが見える。
もう嫌だ!
ここを出たい!
その時、カーテンごしにペンライトで、オレを執拗に照らしてくる人がいた。
夜中のトイレ
最初は寝たふりをしていたが、いつまでも照らしてくるので、目を開けた。
すると、さっきの、オレの苦手な看護師さん。
「ノブオさん、トイレ、一回行ってみましょうか」
どうやら、オレの小便のことが院内の連絡網にもいきわたっているらしい。
書き忘れたが、今日の夕方、美人の主治医が来て、いろいろ質問された。
まばゆいくらいの知的さと美人さとかわいさで、オレはほとんど上の空で返答したのを覚えている。
年のころは20代に見える。
20代で緊急センターの医師なんて、なんて優秀な女性なんだろう。
あからさまな無職の、ヒゲぼうぼうなオレが、恥ずかしくてたまらなかった。
「ノブオさん、トイレに行ってみましょう」
美人女医を思い出してボーッとしてたが、看護師の声で我に返った。
「行ってもでないと思いますよ」
オレは苦笑いしながら答えた。
「カテーテルいれたのが今日の214時くらいですよね。今10時だから、8時間経ってます。尿は溜まっているはずです」
「でも、水飲んでませんよ」
「その分、点滴をしてます」
オレは少し考えた。
すると、看護師は、迷っているオレに背中を押してくる発言をした。
「看護師がそばについているからオシッコが出ないんですよね。じゃあ、立ってもらっても、僕はサポートせずに、外にいます。さらに、今の時間、トイレに行く人はいないから、1時間でも何時間でも、トイレに時間無制限で入っていてください。」
マジで?
病院のルールで、看護師がついていなきゃいけないんじゃないの?
「トイレ行きますか?」
看護師はもう一度聞いてきた。
「行きます」
オレは車イスに乗せられ、トイレに入った。
「じゃあ、僕は他の見回りに行きますんで、何かあったら呼んでください」
なんということだろう。
オレを一人にしてくれるとは!
で、まだ二本足だけで立つ体力がないから、壁に寄りかかりながらオシッコをすると・・・
でた!
普通に出た!
オシッコが出ただけでこんなに感動するとは・・・
計量カップに尿を取り、さっきの看護師さんを呼んだ?
「どうです?」
「普通にでました。ありがとうございます!ありがとうございます!」
オレは看護師さんに感謝しきりだった。
「心理的なものだと思っていましたよ。自宅では普通に出るんですよね?だから、あらゆる条件を外してみました」
「そうなんですか!ありがとうございます!」
「これで出なかったら、いよいよ泌尿器科の先生に来てもらおうと思っていましたけど・・・」
オレは病室のベッドに戻るまでの間、しきりにありがとう、ありがとうと、この看護師さんに感謝した。
ベッドに戻って、思った。
マジ神。
あの看護師さん、マジ神だぜ。
苦手だった看護師さん、明るいところで見るとマジでイケメンだったのも驚いた。
その夜、眠れないので、他のことでもいろいろ相談に乗ってもらったりした。
看護師さんが、マジ神だと思えた一時だった。
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