オレは彼女の次の言葉を待っていた。
妊娠したっていうことは、子供を産んだか、それとも・・・
彼女:「彼がね、子供は欲しくないって言ったの」
オレはそのまま缶ビールを見つめていた。
正直、なんて言えばいいのかわからなかった。
彼女:「で、子供は、堕胎したの。私は産みたかった・・・。それから彼との関係もギクシャクしてきて、最後は、家庭内別居状態だった」
オレは缶ビールを一口飲んだ。
掌で握りしめていた缶ビールは、既にぬるくなっていた。
彼女:「でねー!」
暗くなった雰囲気をいくらか明るくしようとしたのだろうか。
彼女なりのオレに対する気遣いなのだろう。
彼女は背伸びをして、話をつづけた。
彼女:「私も働き口を見つけなきゃならないからさー。でも、長年キャバクラやってきたからね。でも、この年でまたキャバクラはできないし、それなら、昼の仕事をやってみようと思って、保険のセールスレディをやったの」
ノブオ:「おぉ!昼間の仕事に就いたんだ!」
彼女:「そう、それで・・・」
ノブオ:「それで?」
彼女:「・・・・・・・・・・」
しばらく、返答がなかった。
彼女のほうを見ると、ソファの背もたれに頭を沈め、目を閉じていた。
静かな寝息が聞こえた。
ノブオ:「寝ちゃったか・・・」
しばらくして、彼女が目をゆっくりと開けた。
相当、酩酊しているようだ。
彼女:「キャバクラ時代のお客さんの連絡先が残っていたから、とりあえず当たってみたの。そしたらすぐに保険に入ってくれる人もいて・・・」
ノブオ:「ほう。よかったじゃない」
彼女:「うん。でも、だいたいのお客さんからは・・・」
ノブオ:「入ってくれなかった?」
彼女:「ううん。保険に入る条件を出された。それがね・・・」
そんなこと、オレだって、言われなくてもわかる。
正直、そんな話は聞きたくない。
オレがそう言おうとして彼女のほうを向いたとき、また彼女は目を閉じて、寝息を立てていた。
もう完全に「おねむ」モードに入ったようだ。
オレは彼女をお姫様抱っこして、ベッドに寝かせ、毛布を掛けた。
彼女は眼を開けず、そのままベッドで眠り続けた。
オレはぬるくなった缶ビールを飲みほして、部屋の冷蔵庫を開けた。
こんな話を聞かされたら、こっちが飲み足りなくなっちまったようだ。
冷蔵庫の中のウイスキーを取り出し、グラスに注いで、水で割った。
水割りを飲もうとしたら、彼女がポツリと言った。
彼女:「それをくり返していたら私・・・うつ病になっちゃったの・・・」
そのを一言を残して、また彼女は眠った。
オレはソファに座り、彼女を見つめながら、水割りを飲み始めた。
うつ病か・・・。
それで休職したってことか。
なんだか彼女には、オレには話せないような過去がたくさんあるような気がしてきた。
つづく