モデリング(Aided Language Stimulation / Aided Language Input)とは、AAC(補助代替コミュニケーション)ユーザーに対し、パートナーが話しかけながら同時にAACツールを使って語彙を示すインプット支援の方法です。
言葉と同様に、AACによるコミュニケーションも「聞く(見る)→まねる→使う」のプロセスが必要です。モデリングは、その「見せる(モデル化する)」部分に当たります。
なぜモデリングが必要か?
通常の言語発達との違い
- 発語する子ども → 毎日何千回も「ことばのモデル」を聞いて育つ
- AACユーザー → デバイスや絵カードを「見せられる」機会が圧倒的に少ない
したがって、AACシステムも“ことば”としてモデル化されなければ、子どもがそれを使って自発的に表現するのは困難です。
モデリングの基本原則
原則 | 説明 |
---|---|
音声+シンボルで話す | 話しかけながら、AAC上でキーワードを示す(すべて入力しなくてよい) |
完全な文にこだわらない | 重要語彙のみでもOK(例:「きょう」「がっこう」「たのしかった」など) |
子どもが使えなくても先に見せる | 使用の前に、まず「見せて慣れさせる」ことが大事 |
エラー訂正をしない | 子どもが間違えても修正しすぎない。自然な流れの中で再モデリングする |
日常の流れに取り入れる | 学校、家、外出先など、実生活の中で何度も繰り返す |
モデリングの実践例(STの立場から)
場面 | 発話例 | AAC操作例 (CboardやTwinkleなど) |
---|---|---|
朝の会 | 「きょうは くもり です」 | [今日] → [天気] → [くもり] |
遊び | 「ボール やってみよう」 | [ボール] → [やる] |
おやつ | 「もっと ください」 | [もっと] → [たべる]/[ちょうだい] |
📌 ポイント:完璧にすべて入力しなくても、「意味ある語彙」を強調するだけでも効果的
研究:モデリングの効果
複数の研究で以下のような効果が報告されています。
- 発語とAAC使用の両方が増加(Romski et al., 2010)
- 文の長さと多様性が向上(Binger & Light, 2007)
- 発語の妨げにはならず、むしろ促進する(Millar et al., 2006)
✅ モデリングは「発語を奪う」のではなく、「言語発達を支える手段」
🧩 モデリング導入のステップ
- シンボルの場所を支援者が把握
- 日常の中でキーワードをモデリング
- 本人が使い始めたら、それに応じて返す
- 家庭・学校・療育で一貫して行う
- 定期的に語彙を見直し、成長に合わせて拡張
👨👩👧 支援チームや家族との共有ポイント
- 💬「まずは“話しかけながら触る”だけでOKです」
- 💡「1日1回でも繰り返せば、効果は積み重なります」
- 📷 AAC操作の様子を動画で共有しても◎
まとめ
項目 | 内容 |
---|---|
モデリングとは | AACでの語彙を、支援者が見せながら使うこと |
目的 | AACを“ことば”として学ぶ環境をつくる |
STの役割 | 家族や支援者に方法を伝え、継続的な実践を促す |
成果 | 表出の増加・文構成の改善・発語の促進効果あり |
🔗 参考文献(英語)
- Binger, C., & Light, J. (2007). The effect of aided AAC modeling on the expression of multi-symbol messages by preschoolers who use AAC. Augmentative and Alternative Communication, 23(1), 30-43.
- Romski, M., Sevcik, R. A., et al. (2010). Enhancing communication in toddlers with developmental delays using AAC modeling. American Journal of Speech-Language Pathology.
- Millar, D., Light, J., & Schlosser, R. (2006). The impact of AAC intervention on speech production in children with autism. Journal of Autism and Developmental Disorders.
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