発達障害があるお子さんを育てていると、「いつか言葉が出るのかな?」「この子の気持ちをどうやって分かってあげたらいいんだろう…」と悩むことも多いと思います。
言葉が話せない=何も伝えられない。
そう感じてしまうかもしれません。
でも、本当にそうでしょうか?
実は、「話さなくても気持ちや考えを伝える方法」はたくさんあります。
その一つが AAC(拡大代替コミュニケーション)です。
世界的な物理学者、スティーブン・ホーキング博士をご存知ですか?
「博士と彼女のセオリー」という映画にもなった方です。
ALSという病気で体が動かなくなっても、彼はコンピューターを使って世界中に自分の考えを伝え続けました。
その彼が使っていたのも、まさにAAC。
この記事では、オーストラリアでスピーチセラピスト(言語聴覚士)として働く私が、ホーキング博士の事例をもとに「AACが発達障害のある子どもたちとその家族にもたらす可能性」についてお伝えします。
AACとは?話せない子の「声」を育てるサポート
AACとは、「話しことば」が難しい人のためのコミュニケーションのサポートです。
例えば…
- 絵カードや写真(ローテックAAC)
- iPadなどのタブレットで、ボタンを押すと音声が出るアプリ(ハイテックAAC)
- 目の動きで操作するパソコン(重度の障害がある方に)
発達障害のあるお子さんの場合、ことばが出るのを待つだけでなく、「今ある力で伝える」経験を積むことがとても大切です。
それが、AACで可能になります。
ホーキング博士が教えてくれること:話す力=生きる力
ホーキング博士は、病気で体がほとんど動かなくなっても、視線でコンピューターを操作し、自分の思いを世界に発信し続けました。
私たちが注目したいのは、彼の「話す力」が、人生を動かしていたという点です。
これは、発達障害のあるお子さんにもまったく同じことが言えます。
AACが子どもと家族にくれるもの
1. 伝える力が育つ(コミュニケーション能力の向上)
AACを使うことで、言葉が出ていない時期でも「選ぶ・伝える・やりとりする」経験ができます。
📌たとえば:「あけて」「もっと」など、自分の意志を表現する練習が日常でできるようになります。
➡ 結果的に、ことばを話す準備ができるようになる子も多くいます。
2. フラストレーションや癇癪(メルトダウン)の軽減
言いたいことが伝わらないと、子どもはストレスを感じたり、泣いたり怒ったりすることがあります。
AACがあることで、「伝えたいけど伝わらない」状況が減り、子どもが落ち着いて過ごせるようになるケースが多いです。
💬AACで「疲れた」や「やめたい」と伝えられるようになってから、癇癪が減った事例もあります。
3. 社会的なつながりが生まれる
AACを通じて、「こんにちは」「ありがとう」「一緒に遊ぼう」といったやりとりができるようになると、まわりの大人や子どもと関係性を築けるようになります。こうした「要求」以外のコミュニケーション能力を育めるのがipadなどハイテクAACの魅力です。
➡ 子どもにとって「通じ合えた」という経験は、自信や自己肯定感にもつながります。
4. 言語発達の促進
よく誤解されますが、「AACを使うと話さなくなる」ということはありません。
むしろ多くの研究で、AACの使用はことばの発達にポジティブな影響を与えることが示されています。
🧠理由は…
- 視覚で意味がはっきりわかるから、言葉と意味のつながりが学びやすい
- 繰り返しモデル(お手本)を見ることで、ことばの使い方を覚える
- 成功体験(伝わった!)がモチベーションになる
5. 家庭との絆が深まる
AACによって、子どもの気持ちが「わかる」ようになると、親御さんも安心し、子育てのストレスが軽減されます。
また、ご家族が積極的に関わることで、子どももよりAACを使いこなせるようになります。
💡ご家族がAAC活用方法をお子さんに提示(モデリング)するだけでも大きな変化が見られます。
オーストラリアではどうサポートされている?
オーストラリアでは、NDIS(障害者支援制度)を活用して、AACの導入や機器購入、スピーチセラピーを受けることができます。
実際に、私がサポートしてきたご家庭では…
- 自閉症のお子さんがiPadアプリを使って、このレモン「切って」と伝えられるように
- 気持ちのコントロールが難しい子が、AACで「怒ってる」「一人になりたい」と言えるようになり、癇癪が減った
- よりお子さんの気持ちを理解できるようになることでご家族の負担が軽減
AACは、「声」を引き出すツールです
AACは「ことばの代わり」ではなく、「ことばを広げるための橋渡し」。
子どもが「伝える喜び」を感じることができれば、家族の毎日もきっと変わります。
ホーキング博士のように、AACを通して世界とつながることは、誰にでも可能です。
あなたのお子さんにも、今この瞬間から「伝える力」はあります。
私たちスピーチセラピストは、その力を引き出すお手伝いをしています。
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