こんにちは、オーストラリア在住STのMiwaです!
AAC(Augmentative and Alternative Communication/補助代替コミュニケーション)は、発話による表出が難しいクライアントにとって、「伝える力」を補い、自立とQOLの向上を支える重要な支援手段です。特に発達障害、知的障害、運動機能障害などをもつ子どもや成人にとって、AACの適切な導入と活用は、発達支援や教育・就労支援における鍵となります。
AACとは?
AACは、発話が難しい人が他者とコミュニケーションを取るために使用するあらゆる方法を指します。これは単なる「代替」手段ではなく、本人の伝える力を最大限に引き出す支援でもあります。
AACは大きく3つに分類されます。
分類 | 内容 | 例 |
---|---|---|
Low Tech | 非電子的手段(電源不要) | 絵カード、コミュニケーションブック、ジェスチャー |
Mid Tech | 単機能の音声出力付き機器 | 音声ボタン、録音可能なスイッチ |
High Tech | アプリ・デバイスを使った多機能支援 | Twinkle AAC、Proloquo2Go、Grid 3など |
AAC導入のための評価方法
AAC導入前の評価は、単なる「機器選定」ではなく、多角的なコミュニケーション評価(Dynamic Assessment)が必要です。
AACは「本人にとって意味のあるコミュニケーション」を実現するためのツール。したがって、評価時には機器のスペックではなく、「その人にとっての使いやすさ・伝えやすさ・環境での実用性」を中心に多面的に検討することが重要です。
以下の観点で評価を行うと、より適切なAAC選定につながります。
評価の観点
1. 利用者のプロフィール(Communication Profile)
- 発達レベル(認知・言語・運動)
- 既存のコミュニケーション方法(音声、ジェスチャー、模倣など)
- 理解できる表現方法(写真、絵、シンボル、文字)
- モチベーション・関心のある活動
- 行動やフラストレーションの背景に「伝えたい」があるか
2. 環境とサポート体制
- 家庭・学校・療育施設での支援者の理解と協力体制
- 言語的・文化的背景(家庭内言語など)
- 使用する環境(例:静かな教室 vs 騒がしい公園)
- デバイスの充電・管理・持ち運びの可否
3. 伝えたい内容と使用目的(コミュニケーション機能)
- 要望(欲しい、嫌だ)
- 質問・応答(聞き返す、答える)
- 共有・関係性の構築(楽しかった、見て!)
- 自己表現(選ぶ、拒否する、感情を言う)
- 複数の場面で使用可能か(汎用性)
4. 選択可能なAAC手段とアクセス方法
- Low / Mid / High Tech それぞれの適合性
- 直接選択(指差し、タッチ)か、間接選択(視線、スイッチ)
- シンボルのサイズや配置、認識のしやすさ
- 操作スキル(画面の切り替え、スクロール)
5. トライアル使用とフィードバック
- 一定期間の試用での反応・使用頻度
- 家族や支援者の観察・報告
- 本人の反応(喜び、使用を拒否、選びやすさ)
- モデリング(大人がAACを使って話す)による学習効果
このように、AACは単に「アプリを選ぶ」ことではなく、「その人が、どんな環境で、何を、どう伝えたいか」を深く理解したうえで選択・調整していくプロセスが重要です。
AAC評価ツール 比較表(Communication Matrix / TASP / AAC Profile)
選び方のヒント:
- 「今この子がどんな方法で伝えているのか知りたい」→ Communication Matrix
- 「どんなAACの画面構成や語彙が合っているかを詳しく評価したい」→ TASP
- 「支援チームで共有しながらAAC支援の全体像を継続的に見たい」→ AAC Profile
項目 | Communication Matrix | TASP | AAC Profile |
---|---|---|---|
目的 | 非発話者の基本的なコミュニケーション能力の段階評価 | AAC用シンボルの理解・使用スキルのテスト | AAC全体スキルの成長過程と支援ニーズの把握 |
主な評価内容 | ・意図のある/ない行動 ・非象徴/象徴的表現 ・言語的表出 | ・シンボルの選択能力 ・語彙配置の理解 ・操作精度・文構築 | ・操作スキル ・言語理解と表出 ・社会的使用 ・戦略的対応 |
対象 | 発語が困難な全ての年齢層(特に重度障害児) | AAC導入を検討中の子ども〜成人 | AACを使用する子ども〜成人の幅広いレベル |
評価形式 | オンライン/紙ベースの観察・聞き取り形式 | 実物教材を使った課題形式の評価 | チェックリスト形式(4段階評価) |
評価者 | 保護者・支援者・ST(誰でも可能) | STや支援者が実施(英語教材) | STなど支援者(主に専門職) |
言語 | オンラインで無料(英語)※わかりやすい | 英語教材(有料) | 英語教材(有料) |
活用場面 | AAC導入前の基礎評価発達段階の把握 | AACシステム設計の参考(セル数・語彙配置) | 支援計画作成・目標設定・チーム連携・記録管理 |
進捗評価 | △(初期評価には有用) | △(導入時に特化) | ◎(継続評価・目標設定に最適) |
おすすめ | 重度障害児の初期評価・家庭向け | AACデバイス選定時・STによる技術的評価 | NDISやIEP向けの長期支援設計・多職種共有 |
AACの導入と使い方のポイント
導入時は、単に機器を渡すのではなく、「相互作用としてのコミュニケーション」を支える環境整備とモデリングが重要です。
実践的な導入の流れ
- 目的と語彙の設定:「伝えたい」内容の優先順位を明確に
- シンボルの選定と配置:理解しやすく使いやすいよう配慮
- モデリング(Aided Language Stimulation):大人がAACを使って話しかける
▶︎モデリング(Aided Language Stimulation)とは? - ルーチンでの活用:朝の会、トイレ、遊びなど日常に組み込む
- 家族・支援者へのトレーニング:一貫した使用を促す
定期的な再評価とフォローアップ
AACは導入して終わりではありません。成長や環境変化に合わせた定期的な再評価が不可欠です。
再評価の目的
- 語彙の追加・調整
- 表出方法(指差し→視線入力等)のアップグレード
- 本人のモチベーションや使用頻度の変化の確認
推奨される再評価のタイミング
- 3か月〜半年ごとのチェックイン
- 新学期・転園・進学時
- 家族や本人からの困りごとの申告時
おわりに
AACは一人ひとりの「伝えたい」を叶える力を持っています。しかし、それは適切な評価・導入・支援があってこそ機能します。スピーチセラピストとして、単に機器の説明をするだけでなく、コミュニケーションの意味・意欲・参加に焦点を当て、支援を重ねていくことが鍵となります。
参考文献(抜粋)
Beukelman, D. R., & Mirenda, P. (2013). Augmentative and Alternative Communication: Supporting Children and Adults with Complex Communication Needs (4th ed.)
Millar, D., Light, J., & Schlosser, R. (2006). The impact of AAC intervention on speech production. JSLHR, 49(2), 248–264.
Romski, M. & Sevcik, R. (2005). AAC and early intervention: Myths and realities. Infants & Young Children, 18(3), 174–185.
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